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「速いフォーム」と「そうでないフォーム」の見分け方

皆さんは、ビデオカメラで自分のランニングフォームを見たことがあるでしょうか?私は指導者のいない環境で練習に取り組んでいたことが多かったため、自分のランニングフォームをいつも細かく動画でチェックしていました。

一番初めに動画で自分のランニングフォームをチェックし始めたのが高校2年生から3年生になる間の時期でした。実際に毎日フォームを確認していると、自分のフォームが毎日微妙に変化していることに気づいたり、走りの中で表現したい動き/フォームと感覚との違いを確認したり、毎日夢中になったのを覚えています。

ただ初めて自分のランニングフォームを見始めた時には、「この走りはいいの?悪いの?本当に速い?」と、どこに注目して、何を「速い、速くない」の判断軸にすればいいのかわからなかったという問題がありました。私はいろんな他の選手のビデオをYoutubeや会場で収集しまくり、どこが自分と違うのか?何ができてたら速いのか?など必死に比較し考え抜いて、ようやくいくつかの見るべきポイントがわかってきました。

今回の記事では、ビデオでランニングフォームを見ただけで「速い走り」と「そうでない走り」を瞬時に見分けるための着眼点について紹介していきたいと思います。

今回の内容に入る前に、「速い走り」について再確認したいと思います。「速い走り」とは「反発と股関節の伸展動作を最大限活かせる走り/フォーム」のことをさします。速く走るために(正確にいうと、速く重心を移動させるために)、重要な要素が二つあります。1つ目が「地面からの反発の力」、2つ目が「地面を後ろに押し込むための股関節伸展動作」です。反発と伸展動作について詳しく知りたい方は、下記の記事をご覧ください!反発と伸展動作に関して、わかりやすく詳しい情報が得られます!

足が速くなる方法より走りの仕組みを考えよう。

今回は、この「反発と股関節伸展動作の二つを最大限利用した走り/フォーム」とはどういうものなのか?どうしたらそれらができているのか?を見分けるための着眼点について紹介しようと思います!

この着眼点は以下の3点に分かれます。

①接地時の腕の位置はどこか?

②接地時の股関節の屈曲角度が鋭いか?

③4の字型か7の字型か

これら3つの観点について「速い走り」と「そうでない走り」を比較しながら、順を追って説明したいと思います!

接地時の腕の位置はどこか?

接地した瞬間の腕の位置は非常に重要な指標になります。まずは以下の写真を見てください。

この写真は、左400m世界記録保持者のWayde Van Niekerk選手(100m 9.94) と、一般大学生(100m 11.1くらい)の走りを比較したものになります。いうまでもなく、Wayde Van Niekerk選手が速い走り、右の大学生が遅い走りの参考例となります。

まずは一つ目の着眼点「接地時の腕の位置」について解説をしていきたいと思います。

下の写真は、先ほどの写真に線を加えたものになります。

速いフォームの腕の位置

足が地面に接地した瞬間、肘が体の真横にしっかりときている&90°に折れている状態が最も良い腕の位置になります。右の学生と比べると一目瞭然です。右側の学生は完全に肘が遅れています。

肘が遅れてしまう原因は何か?

接地時に肘を体の真横に持ってきたい時、以下の2つの方法が考えられます。

1.腕振りの切り替えを速くして接地する瞬間に肘が遅れないようにする。

2.腕振りのタイミングは変えず、接地のタイミングをワンテンポ遅くすることで肘が体の横に来るのを待って接地する。

この場合、実践すべき方法は2つめの方法です。

・・・あれ?1じゃないの? そう思われた方が多いのではないでしょうか?

接地時の腕振りが遅れているのだから、腕振りを速くすれば良いんじゃないの?と思った方が多数だと思います。でも実は、腕振りが追いつていない人の多くの場合は、接地のタイミングが早すぎるために腕振りが遅れているケースが多いのが現状です。速くないフォームで走ってしまっている人のほとんどが、無意識的に自分から脚を振り下ろしてしまい、接地のタイミングが早くなってしまっているのです。その結果として、腕振りが遅れているというような見え方で、現象として現れてきます。

この腕振りをと接地のタイミングを見ることで、自分の接地のタイミングがずれている、つまり速く走れないフォームになっていることを一発で確認することができます。

よく皆さんが行う「腿上げ」という練習がありますが、走りの中で「腿上げ」のタイミングで地面を踏んでも速く走ることが出来ません。腿上げと走りの関係性について詳しく書いた記事があるので、より詳しく知りたい方は読んでください!

「腿上げのイメージのまま走ってはいけない???実は多くの人が勘違いしている「腿上げ」のヒミツ

接地時の股関節の屈曲角度が鋭いか?

次に先ほどと同じ写真を、違う観点からのぞいてみましょう。以下の写真をみてください

これは、先ほどの走りを「股関節の屈曲角度」をわかりやすく加工した写真になります。

速いフォームの股関節の屈曲角度は鋭い

上の写真でもわかるように、Wayde Van Niekerk選手の走りは股関節の屈曲角度が鋭く、パワーを生み出すための準備ができています。一方で右側の学生は膝が落ち、体も起き上がっているため、股関節の屈曲角度が開いてしまっています。

速く走るために必要な「股関節の伸展動作」のパワーを最大限引き出すためには、この股関節の屈曲姿勢を作ることが非常に重要になります。立ち幅跳びで前に跳ぶ際、体を低くして屈むのと全く同じ原理です。この股関節屈曲姿勢は「パワーポジション」と呼ばれることが多く、このパワーポジションをいかにうまく作るかによって一歩あたりで引き出せるパワーの絶対値が大きく変わります。パワーポジションが作れる人の方が大きな力を発揮できます。

股関節の屈曲角度が鋭くならないのはなぜか?

これの原因は、「脚を自分から振り下ろしてしまっている」ことです。上記の接地時の腕が遅れているように見える現象と全く同じです。

人間は体の構造上、地面に脚を接地しようとすると股関節の屈曲角度を解放し、膝を降ろさなくてはいけません。ですが、速く走るためには脚を自分から振り下ろしてはいけません。

速くないフォームで走っている人の多くが、自分から脚を下ろして地面を叩きに行ってしまいます。結果として対空時間が減って腕が遅れたり、股関節の屈曲角度が開いてしまいパワーポジションを作れなくなったりという結果となってしまいます。この観点からはこれらの事実がはっきりと確認できます。

速いフォームは、より滞空時間を作るための「溜め」という技術が必要になってきます。この技術ができている、出来ていないを判断するときにこれらの着眼点で走りをみてみてください。

4の字型か7の字型か

最後に、速いフォームとそうでないフォームの脚の軌道の違いについて説明させていただきたいと思います。まずは以下の写真をみてください!

上記で比較させていただいた写真の続きの写真です。走っている時は、接地後に重心が徐々に前に移動し、そして足が離地する一連の流れがあります。その中でも特に注目してみていただきたい点を2つ紹介させていただきます。

速いフォームは4の字の軌道を描く

1枚目の写真をみてください。Wayde Van Niekerk 選手の脚の軌道は「4の字」になっています。一方で右の写真の学生は「7の字」を描いています。

続いて2枚目の写真をみてください。この写真は、地面から脚が離れた直後の写真です。みてわかるよう、「4の字」の軌道を描けているスプリンターは、足が地面から離れたとき、後ろにある脚の前後の開きが狭く、膝が曲がったまま離地しているのがわかります。「7の字」の軌道で走る人は、前後の開きが大きくなり、膝が一直線になっているのがわかります。

「4の字」「7の字」という比較、議論は多くの場でされているテーマです。いろんな意見がありますが、私は「4の字型」のフォームで走れるスプリンターは速いという見解を提示します。

なぜ速いフォームだと4の字の軌跡を描くのか?

4の字型と7の字型の大きな違いは「股関節伸展のスピード」です。つまり、地面に力を伝える瞬発力が高いと4の字型になり、低いと7の字型になってしまいます。なので、4の字型になっているのかいないのか?を見ることで自分が速くなっているのかなっていないのかという判断ができるようになるということです。

下図が軌跡の違いが生まれる原因を図解したものです。

上記のように、股関節伸展の力をうまく使えると、腰がワンテンポ速く進み、4の字の軌跡がが現れます。腰がワンテンポ早く進むと、その分速く前に進むことができるため、速い走りになります。

では実際にどのような練習をしたら4の字型の走りが出来るようになるのでしょうか?この走りを実現するには、「乗り込み」という概念と、「伸張反射」というテクニックについて理解するのがいいと思います!以下の記事に詳しく書いてあるので是非是非読んでみてください!

乗り込み?腰を乗せる?それって結局何?

伸張反射を走りの中で使えるようになるドリルその①

まとめ

今回は、大きく分けて3つの着眼点で「速いフォーム」と「そうでないフォーム」の見分け方を紹介してきました。本日紹介した「速いフォーム」を参考に、自分の走りを再確認してみてください。そして、いろんな選手と比較してみてください。誰一人として同じフォームで走る選手はいませんが、速い人のフォームには必ず共通点があるはずです。それを見つけられれば、練習の打ち込み方や目指す方向性がより深掘りされるでしょう。

後日談ですが、今回記事の中で紹介した11.1台だった学生は、3つの着眼点を軸にそれらを克服するための練習をしっかりと考えて取り組んだ結果、11.1→10.7までタイムをあげることができました。その時の写真が以下です。

今回紹介したのは、あくまでも現象の結果を見極める方法に過ぎない、ということを忘れてはいけません。体の骨格や筋肉量、その他様々な影響で走りの見え方は変わります。自分には何が足りていないのかを常に試行錯誤し続けることが重要です。このサイトは、そんな皆様をサポートするためのコンテツをどんどん増やして行きます。他の記事もどんどんみていってくださいね!

それではまた!

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